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羊 - 諏訪部順一/保志総一郎.lrc
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[00:00.10]こうして僕は[00:02.17]六年前 サハラ砂漠で飛行機が故障するまで[00:06.39]心を許して話せる相手に出会うこともなく[00:10.25]一人で生きてきた[00:21.22]飛行機は エンジンのどこかが壊れていた[00:25.38]整備士も乗客も乗せていなかったので[00:29.73]僕は難しい修理の仕事を一人でやり遂げるしかなかった[00:34.16]死活(しかつ)問題だった[00:38.26]飲み水は一週間分あるかないかだった[00:44.48]最初の夜[00:46.36]僕は人の住む場所から千マイルも離れた砂の上で眠った[00:53.66]大海原(おおうなばら)を筏(いかだ)で漂流する遭難者より[00:56.41]ずっと孤独だった[00:58.18]だから 夜明けに小さな可愛らしい声で起こされた時[01:04.47]僕がどんなに驚いたか想像してみてほしい[01:09.60]その声は こう言った[01:14.26]「お願い、羊の絵を書いて。」[01:18.07]「え?」[01:19.16]「羊を書いて。」[01:21.60]雷(かみなり)に打たれたみたいに飛び起きると[01:24.45]目を擦って辺りを見回した[01:27.23]そこには、とても不思議な子供が一人いて[01:31.90]僕を真剣に見つめていた[01:36.48]僕は突然現れたその子供を目を丸くして見つめた[01:41.72]何度も言うけれど[01:44.11]人の住む所から千マイルも離れていたのだ[01:47.66]しかしその子は[01:51.34]道に迷っているようには見えなかった[01:53.87]疲れや飢えや渇きで死にそうになっているようにも[01:58.74]怖がっているようにも見えなかった[02:01.50]人の住む所から千マイルも離れた砂漠を真ん中にいながら[02:07.91]途方に暮れた迷子と言った様子は少しもなかったのだ[02:14.59]ようやく口が聞けるようになると、僕はその子に尋ねた[02:20.13]「君は、こんな所で何をしているの?」[02:27.53]しかしその子はとても大切なことのように 静かに繰り返すだけ[02:35.40]「お願い、羊の絵を書いて。」[02:39.71]馬鹿げた話だが[02:41.31]人の住む所から千マイルも離れて[02:44.70]死の危険に曝(さら)されているというのに[02:47.13]僕はその子に言われるままに[02:50.75]ポケットから一枚の紙切れ(かみきれ)と万年筆を取り出していた[02:58.13]だけどそこで[02:59.19]僕が一生懸命勉強してきたのは[03:02.37]地理と歴史と算数と文法だけだったことを思い出して[03:06.22]少し不機嫌になりながら[03:08.77]絵は書けないんだと その子に言った。[03:14.62]「そんなの構わないよ。羊を書いて。」[03:20.75]僕は羊の絵なんか書いたことがなかったので[03:24.03]自分に書けるたった二つの絵のうちの一つを書いてあげた[03:27.86]ボアの外側の絵だ[03:32.55]その時男の子がこういうのを聞いて[03:34.94]僕はビックリした[03:38.87]「違う違う。[03:39.81]ボアに飲み込まれた象なんて要らないよ。[03:43.54]ボアはとっても危険だし、[03:45.42]象はけっこう場所塞(ふさ)ぎだから。[03:48.41]僕の所はとっても小さいんだ。[03:52.38]ほしいのは羊。羊を書いて。」[03:57.71]そこで僕は、羊を書いた。[04:05.19]「んー、ダメだよ。この羊はひどい病気だ。[04:11.10]違うのを書いて。」[04:14.73]僕は書き直した。[04:17.60]男の子は僕を気遣って、優しく微笑んだ。[04:22.98]「よく見て、これは羊じゃあないでしょう。[04:26.68]雄羊(おひつじ)だよね。[04:28.48]角(つの)があるもの。」[04:28.48]そこで僕はまた書き直した。[04:35.41]けれどそれも前の二つと同じように拒絶された。[04:40.24]「この羊は年を取りすぎているよ。[04:43.46]僕、長生きする羊がほしいの。」[04:48.33]我慢も限界に近づいていた[04:51.56]修理を始めなければと焦っていた[04:54.99]僕は[04:56.72]ざっと書きなぐった絵を男の子に投げ渡した[05:02.50]「これは羊の箱だ。[05:03.71]君が欲しがっている羊はこの中にいるよ。」[05:08.99]すると驚いたことに[05:11.12]この小さな審査員(しんさいん)の顔が[05:14.04]ぱっと輝いたのだ[05:17.46]「ぴったりだよ。[05:19.83]僕がほしかったのは、この羊さ。[05:23.72]ねえ、この羊、草をいっぱい食べるかな?」[05:27.88]「どうして?」[05:30.32]「僕の所はとっても小さいから。」[05:35.05]「大丈夫だよ。[05:36.43]君にあげたのはとっても小さな羊だからね。」[05:42.33]「そんなに小さくないよ。[05:45.22]あれ、羊は寝ちゃったみたい。」[05:48.08]こうして僕は[05:51.13]この小さな王子さまと知り合いになった[05:59.53]王子さまがとこから来たのか分かるまで[06:02.32]かなり時間がかかった[06:05.53]王子さまは[06:07.66]僕にはたくさん質問してくるのに[06:10.86]こちらからの質問にはほとんど耳を貸さなかったのだ[06:16.56]少しずつ全てが明らかになっていったのは[06:20.05]王子さまが偶々口にした言葉からだった[06:24.99]それは[06:27.18]初めて僕の飛行機を見た時のことだ[06:30.44]「何、これ?」[06:33.59]「飛行機。空を飛ぶんだ。僕の飛行機さ。」[06:40.58]空を飛べると自慢げに話していたら[06:43.03]王子さまは大声で言った[06:47.13]「え?じゃあ、君は空から落(お)っこちてきたんだ。」[06:51.66]「まあ、そうだなあ。」[06:54.78]「あ、それは可笑しいね。」[06:59.39]王子さまは可愛い声で笑い出したが[07:01.78]僕はかなりいらいらした[07:05.72]自分を襲った災難を[07:07.68]真面目に受け取ってほしかったのだ[07:11.71]しかし王子さまは続けてこう言った[07:15.38]「それじゃ、君も空から来たんだね。[07:20.84]どの星から来たの?」[07:24.59]その瞬間[07:25.81]王子さまがなぜここにいるのかという疑問に[07:28.96]さっと光が差し込んだように感じて[07:32.39]僕はすぐに尋ねた[07:36.12]「君は、よその星から来たのかい?」[07:40.78]しかし王子さまは答えず[07:43.35]飛行機を見て、そっと首を振っただけだった[07:48.78]「これに乗ってきたのなら、[07:50.75]そんなに遠くからじゃないよね。」[07:52.71]そう言うと 物思いに沈んでいった[07:57.74]王子さまはポケットから羊の絵を取り出して[08:02.97]大切そうに眺めていた。[08:06.72]「君はどこから来たの?[08:09.38]その羊をどこへ連れて行くつもりなの?」[08:14.23]「この箱がいいのわね。[08:16.61]夜になると、羊の小屋になるって所だよ。」[08:20.42]「そうだね。[08:23.79]いい子にしていたら、[08:25.50]昼間羊を繋いでおく綱もあげるよ。[08:29.18]それに、綱を結んでおく杭(くい)もね。」[08:33.24]「羊を繋いでおくの?[08:35.85]可笑しいよ、そんなの。」[08:38.45]「でも、繋いでおかなかったら、[08:41.22]勝手にあちこち歩き回って、[08:43.71]どこかいなくなっちゃうだろ。」[08:46.82]すると、僕の友達はまた笑い出した。[08:51.98]「羊がどこへ行くっていうのさ。」[08:55.22]「どこにでも。ずっとまっすぐ歩いていって…」[09:00.56]「大丈夫だよ、僕の所は本当に小さいからね。[09:05.31]まっすぐに行っても[09:07.65]そんなに遠くには行けないよ。」[09:15.20]こうして僕は[09:16.90]二つ目のとても大切なことを知った[09:20.81]王子さまのいた星は家一軒(いっけん)より[09:23.88]やや大きいくらいの大きさなのだ。[09:28.56]それほど驚きはしなかった[09:31.79]地球や木星・火星・金星のように[09:36.22]名前のある巨大な星以外にも[09:39.10]望遠鏡でも見つからないほど小さな星が[09:42.27]何百とあることを知っていたからだ[09:46.77]天文学者がそんな星を発見すると[09:49.73]名前の代わりに番号を付ける[09:53.24]例えば、小惑星325と言ったように。[10:00.14]王子さまがやって来た星は[10:02.38]小惑星B612だと思う[10:07.46]1909年にトルコの天文学者が[10:11.14]一度だけ望遠鏡で観測した星だ[10:16.25]天文学者は国際天文家会議で[10:19.34]自分の発見について堂々と発表した[10:23.35]しかしその時は[10:24.89]服装のせいで[10:26.04]誰にも信じてもらえなかった[10:30.00]大人なんて そんなもんだ[10:33.43]しかし[10:34.49]小惑星B612に[10:36.32]名誉挽回(めいよばんかい)の幸運が訪れた[10:40.89]トルコの独裁者が[10:42.52]国民にヨーロッパ風の服装を着るように命令し[10:46.72]従わなければ死刑ということになったのだ[10:51.34]そこで天文学者は[10:53.12]1920年、今度は[10:56.30]もっと洗練(せんれん)された服装で同じ発表を繰り返した[11:01.66]この時はみんなが彼の言うことを信じた。[11:10.93]この星のことをこんなに詳しく話して[11:13.90]番号まで教えるのは[11:15.81]大人たちのせいだ[11:19.02]大人は数字が好きだ[11:21.63]数字以外には興味がない[11:24.95]新しい友達のことを話しても[11:27.70]どんな声か[11:29.04]どんな遊びが好きか[11:31.22]蝶々を集めているかと言った[11:33.56]大切なことは何も聞いて来ない[11:37.63]何歳か[11:39.18]何人兄弟か[11:41.25]お父さんの年収はいくらかと言った[11:44.68]数字のことばかり聞いて来て[11:47.12]それですっかり知ったつもりになる[11:51.26]「王子さまは本当にいたよ。[11:53.85]可愛かったし、笑っていたし、[11:56.72]羊を欲しがっていた。[11:59.33]だって、羊を欲しがるってことは、[12:02.56]間違いなくその人が[12:03.97]本当にいるってことの証拠だからね。」[12:08.09]こんな風に話しても[12:10.17]大人は肩を竦(すく)め[12:12.16]子供扱いするだけだ。[12:15.47]しかし[12:16.79]「王子さまが来た星は小惑星B612だよ」と言えば[12:21.96]大人は納得して[12:24.04]それ以上余計なことは聞いて来ない[12:28.97]大人なんてそんなもんだ[12:31.76]でも 悪く思ってはいけないよ[12:35.65]子供は大人に対して[12:37.97]広い心で接してあげなきゃね[12:42.47]でも 生きるということがどういうことなのか[12:46.18]よく分かっている僕たちには[12:48.72]数字なんかどうでもいい[12:53.25]本当だったら僕は[12:55.30]この物語をお伽話のように始めたかった[13:01.23]「昔々、自分より本の少し大きいだけの星に暮らしている[13:06.94]小さな王子さまがいました[13:10.39]王子さまは友達を欲しがっていました。」[13:16.22]生きるということがどういうことなのか分かっている人には[13:20.22]こういう言い方のほうが[13:21.86]ずっと本当らしく聞こえるだろう[13:25.96]僕は この本を軽々しく読まれたくない[13:32.53]こう言った思い出話を語ることは[13:35.61]僕にとって 本当に辛い[13:40.60]僕の友達が羊を連れて行ってしまって[13:44.03]もう六年になる[13:48.24]こうして彼のことを書くのは[13:51.66]彼を忘れないためだ[13:56.18]友達を忘れてしまうのは悲しい[13:59.86]誰にでも友達がいるわけではない[14:03.51]それに[14:04.85]僕も数字にしか興味のない大人になってしまうかもしれない[14:12.78]そうならないために僕は[14:15.23]絵の具箱と鉛筆を買った[14:19.27]六歳でボアの外側と内側を書いて以来[14:22.48]何も書いていなかった僕にとって[14:26.19]この年でもう一度絵を書くのは大変なことだった[14:32.57]出来るだけ[14:34.08]本物そっくりな肖像画(しょうぞうが)を書いてみるつもりだ[14:38.61]でも ちゃんと書けるかどうかは[14:41.95]自信がない[14:44.53]一枚いい物が書けても[14:46.84]その次はまるで似ていないかもしれない[14:51.15]背丈(せたけ)が難しいし[14:53.35]服の色も迷ってしまう[14:57.03]手探りでやってみるが[14:59.21]もっと大事な細かい部分を間違えてしまうかもしれない[15:04.51]でも そこは大目に見てほしい[15:10.06]王子さまは[15:11.52]詳しいことは何も説明してくれなかったのだ[15:16.55]恐らく彼は[15:18.34]僕のことを自分と同じ仲間だと思ったのだろう[15:24.89]しかし残念ながら僕は[15:27.52]箱の中の羊を見ることが出来ない[15:32.91]少しばかり大人になってしまったのかもしれない[15:38.74]年を取ったのだ[15:45.77]日を追うごとに僕は[15:48.15]王子さまの星のことや[15:50.35]そこからの旅立ち[15:52.79]これまでの旅について知るようになっていった[15:57.26]王子さまが偶々口にした言葉で[16:00.30]少しずつ様子が分かってきた[16:04.98]こうして三日目に[16:06.85]バオバブをめぐる大騒動を知った[16:11.47]これも、羊のお陰だった[16:15.91]王子さまが急に心配らしくなって[16:19.07]こう聞いてきたのだ[16:21.90]「羊が小さな樹も食べるって、[16:24.36]本当なんでしょう?」[16:26.83]「うん、本当だよ。」[16:29.69]「あぁ、よかった。」[16:33.05]羊が小さな樹を食べることが[16:35.70]なぜそんなに大事なことなのか[16:38.29]僕には分からなかった[16:41.14]しかし 王子さまは更にこう聞いてきた[16:45.96]「だったら、バオバブも食べるよね。」[16:50.34]僕は王子さまに[16:52.29]バオバブは小さな樹じゃなくて[16:54.87]教会の建物と同じぐらい大きな樹だから[16:58.43]象の群れを丸ごと連れてきても[17:01.06]たった一本のバオバブも[17:02.91]食べきれないだろうと教えてあげた[17:06.92]象の群れを思い描いて[17:09.50]王子さまは笑った。[17:12.09]「上に上に積み重ねなきゃいけないね。」[17:16.58]しかし、続けてなかなか鋭い指摘をした[17:21.53]「バオバブだって、大きくなる前は小さいんだよね。」[17:26.62]「そりゃそうだよ。[17:28.74]それにしても、[17:30.13]どうして羊に小さなバオバブを食べてもらいたいんだい?」[17:34.77]「何を言ってるの?[17:36.50]そんなの当たり前でしょ。」[17:40.72]僕は[17:42.15]一人でこの難問を解き明かすことになり[17:44.78]散々頭を捻(ひね)った[17:48.44]つまり こういうことだ[17:52.60]王子さまの星には[17:54.43]他の星と同じように[17:56.23]良い草と悪い草があった[18:00.58]良い草は良い種から育ち[18:03.79]悪い草は悪い種から育つ[18:08.12]しかし 種は目に見えない[18:11.77]土の中でひっそりと眠っている[18:16.26]その一つが気まぐれに目を覚ますと[18:19.40]伸びをしておずおずと[18:22.80]あどけない小さな茎(くき)を太陽に向かって伸ばし始める[18:28.19]それが赤蕪(あかかぶ)や薔薇だったら[18:31.28]そのままにしておいて構わない[18:34.36]でも、悪い草だと分かったら[18:37.59]すぐに抜き取らなくてはいけない[18:41.78]王子さまの星には[18:43.72]そんな恐ろしい種があった[18:47.24]バオバブの種だ[18:50.93]星の土は[18:52.52]何処も彼処(かしこ)もバオバブの種だらけだった[18:57.56]少しでも抜くのが遅れると[19:00.27]バオバブはもう手が付けられなくなる[19:04.82]星全体を覆いつくし[19:07.67]根っこが突き抜け[19:09.58]穴を開けてしまう[19:12.76]小さな星だと[19:14.59]殖(ふ)えすぎたバオバブで[19:16.26]破裂してしまう[19:19.59]「決まりに出来るかどうかだね。[19:22.34]毎朝、自分の身支度(みじたく)が済んだら、[19:25.66]星の手入れに取り掛かる。[19:28.86]芽(め)を出したばかりの薔薇とバオバブは[19:31.15]よく似ているんだけど、[19:33.23]それを見分けて、バオバブだと分かったら、[19:36.14]すぐに抜いてしまう。[19:38.78]手間は掛かるけど、[19:40.65]とっても簡単なことだよ。」[19:44.21]「偶には仕事を後回しにしも大丈夫な時ってあるけど、[19:48.69]バオバブでそんなことをしたら、[19:50.78]取り返しがつかなくなるんだ。[19:54.11]例えばね、ある星に、[19:57.08]怠け者が住んでいたんだけど、[19:59.74]その人は三本のバオバブを[20:02.25]ほったらかしにしていたばかりに…」[20:09.47]僕は 王子さまの話すとおりに[20:12.57]その星の絵を書いた[20:15.92]星より巨大な三本のバオバブと途方に暮れる怠け者。[20:23.00]お説教(せっきょう)臭いことを言うのは[20:24.87]あんまり好きじゃないけれど[20:26.58]バオバブの脅威(きょうい)は[20:28.26]地球ではほとんど知られていないし[20:31.61]小惑星で道に迷った人が危険な目に遭う可能性は[20:35.16]あまりにも大きい[20:38.41]だから僕は 一度だけ普段の慎みを忘れて[20:42.46]こう言っておこう[20:45.59]「おい、子供たち、バオバブに気を付けろ!」[20:52.38]僕は友人たちに警告を与えるために[20:56.28]一生懸命この絵を仕上げた[21:00.61]苦労して書いた価値があった[21:03.70]他はこれほどうまくいかなかった[21:08.74]バオバブを書いた時は[21:10.65]切羽詰(せっぱつま)って[21:11.93]気持ちが高ぶっていたのだ[21:16.93]ああ、小さな王子さま[21:21.03]こうして僕は少しずつ[21:23.80]細やかで憂鬱な君の人生を理解していった[21:29.12]長い間、君には美しい夕日しか[21:32.65]心を慰めるものがなかったことも[21:37.32]僕がこの秘密を知ったのは[21:39.73]四日目に朝 君がこう言った時だ[21:44.76]「僕、夕日が大好きなんだ。[21:48.00]夕日を見に行こうよ。」[21:50.73]「でも、待たなきゃね。」[21:53.85]「待つって、何を?」[21:56.96]「日が沈むのをさ。」[22:00.05]君はとてもビックリしたようだった[22:03.32]そして すぐに笑い出した[22:07.28]「僕、まだ自分の星にいるつもりになっていたよ。」[22:13.12]「そうだね。」[22:15.31]誰もが知っているように[22:17.34]アメリカが正午(しょうご)の時には[22:19.45]フランスは夕暮れだ[22:21.94]だから、一分でフランスに飛んでいけたら[22:25.25]夕日を見ることが出来るけど[22:27.91]残念ながら フランスは遠すぎる[22:32.31]だけど君の小さな星では[22:34.75]本の少し椅子を動かすだけでいい[22:38.65]そうすれば、見たい時にいつでも[22:41.96]黄昏(たそがれ)を眺めていられる。[22:45.54]「僕ね、一日に44回も夕日を見たことがあるよ。」[22:52.73]そう言って、暫くしてから、こう付け加えた。[22:59.56]「ねぇ 悲しくてたまらない時って[23:03.81]夕日が恋しくなるよね。」[23:07.55]「44回も夕日を見た日は[23:10.45]悲しくてたまらなかったのかい?」[23:15.35]しかし、王子さまは答えなかった。
文本歌词
こうして僕は六年前 サハラ砂漠で飛行機が故障するまで心を許して話せる相手に出会うこともなく一人で生きてきた飛行機は エンジンのどこかが壊れていた整備士も乗客も乗せていなかったので僕は難しい修理の仕事を一人でやり遂げるしかなかった死活(しかつ)問題だった飲み水は一週間分あるかないかだった最初の夜僕は人の住む場所から千マイルも離れた砂の上で眠った大海原(おおうなばら)を筏(いかだ)で漂流する遭難者よりずっと孤独だっただから 夜明けに小さな可愛らしい声で起こされた時僕がどんなに驚いたか想像してみてほしいその声は こう言った「お願い、羊の絵を書いて。」「え?」「羊を書いて。」雷(かみなり)に打たれたみたいに飛び起きると目を擦って辺りを見回したそこには、とても不思議な子供が一人いて僕を真剣に見つめていた僕は突然現れたその子供を目を丸くして見つめた何度も言うけれど人の住む所から千マイルも離れていたのだしかしその子は道に迷っているようには見えなかった疲れや飢えや渇きで死にそうになっているようにも怖がっているようにも見えなかった人の住む所から千マイルも離れた砂漠を真ん中にいながら途方に暮れた迷子と言った様子は少しもなかったのだようやく口が聞けるようになると、僕はその子に尋ねた「君は、こんな所で何をしているの?」しかしその子はとても大切なことのように 静かに繰り返すだけ「お願い、羊の絵を書いて。」馬鹿げた話だが人の住む所から千マイルも離れて死の危険に曝(さら)されているというのに僕はその子に言われるままにポケットから一枚の紙切れ(かみきれ)と万年筆を取り出していただけどそこで僕が一生懸命勉強してきたのは地理と歴史と算数と文法だけだったことを思い出して少し不機嫌になりながら絵は書けないんだと その子に言った。「そんなの構わないよ。羊を書いて。」僕は羊の絵なんか書いたことがなかったので自分に書けるたった二つの絵のうちの一つを書いてあげたボアの外側の絵だその時男の子がこういうのを聞いて僕はビックリした「違う違う。ボアに飲み込まれた象なんて要らないよ。ボアはとっても危険だし、象はけっこう場所塞(ふさ)ぎだから。僕の所はとっても小さいんだ。ほしいのは羊。羊を書いて。」そこで僕は、羊を書いた。「んー、ダメだよ。この羊はひどい病気だ。違うのを書いて。」僕は書き直した。男の子は僕を気遣って、優しく微笑んだ。「よく見て、これは羊じゃあないでしょう。雄羊(おひつじ)だよね。角(つの)があるもの。」そこで僕はまた書き直した。けれどそれも前の二つと同じように拒絶された。「この羊は年を取りすぎているよ。僕、長生きする羊がほしいの。」我慢も限界に近づいていた修理を始めなければと焦っていた僕はざっと書きなぐった絵を男の子に投げ渡した「これは羊の箱だ。君が欲しがっている羊はこの中にいるよ。」すると驚いたことにこの小さな審査員(しんさいん)の顔がぱっと輝いたのだ「ぴったりだよ。僕がほしかったのは、この羊さ。ねえ、この羊、草をいっぱい食べるかな?」「どうして?」「僕の所はとっても小さいから。」「大丈夫だよ。君にあげたのはとっても小さな羊だからね。」「そんなに小さくないよ。あれ、羊は寝ちゃったみたい。」こうして僕はこの小さな王子さまと知り合いになった王子さまがとこから来たのか分かるまでかなり時間がかかった王子さまは僕にはたくさん質問してくるのにこちらからの質問にはほとんど耳を貸さなかったのだ少しずつ全てが明らかになっていったのは王子さまが偶々口にした言葉からだったそれは初めて僕の飛行機を見た時のことだ「何、これ?」「飛行機。空を飛ぶんだ。僕の飛行機さ。」空を飛べると自慢げに話していたら王子さまは大声で言った「え?じゃあ、君は空から落(お)っこちてきたんだ。」「まあ、そうだなあ。」「あ、それは可笑しいね。」王子さまは可愛い声で笑い出したが僕はかなりいらいらした自分を襲った災難を真面目に受け取ってほしかったのだしかし王子さまは続けてこう言った「それじゃ、君も空から来たんだね。どの星から来たの?」その瞬間王子さまがなぜここにいるのかという疑問にさっと光が差し込んだように感じて僕はすぐに尋ねた「君は、よその星から来たのかい?」しかし王子さまは答えず飛行機を見て、そっと首を振っただけだった「これに乗ってきたのなら、そんなに遠くからじゃないよね。」そう言うと 物思いに沈んでいった王子さまはポケットから羊の絵を取り出して大切そうに眺めていた。「君はどこから来たの?その羊をどこへ連れて行くつもりなの?」「この箱がいいのわね。夜になると、羊の小屋になるって所だよ。」「そうだね。いい子にしていたら、昼間羊を繋いでおく綱もあげるよ。それに、綱を結んでおく杭(くい)もね。」「羊を繋いでおくの?可笑しいよ、そんなの。」「でも、繋いでおかなかったら、勝手にあちこち歩き回って、どこかいなくなっちゃうだろ。」すると、僕の友達はまた笑い出した。「羊がどこへ行くっていうのさ。」「どこにでも。ずっとまっすぐ歩いていって…」「大丈夫だよ、僕の所は本当に小さいからね。まっすぐに行ってもそんなに遠くには行けないよ。」こうして僕は二つ目のとても大切なことを知った王子さまのいた星は家一軒(いっけん)よりやや大きいくらいの大きさなのだ。それほど驚きはしなかった地球や木星・火星・金星のように名前のある巨大な星以外にも望遠鏡でも見つからないほど小さな星が何百とあることを知っていたからだ天文学者がそんな星を発見すると名前の代わりに番号を付ける例えば、小惑星325と言ったように。王子さまがやって来た星は小惑星B612だと思う1909年にトルコの天文学者が一度だけ望遠鏡で観測した星だ天文学者は国際天文家会議で自分の発見について堂々と発表したしかしその時は服装のせいで誰にも信じてもらえなかった大人なんて そんなもんだしかし小惑星B612に名誉挽回(めいよばんかい)の幸運が訪れたトルコの独裁者が国民にヨーロッパ風の服装を着るように命令し従わなければ死刑ということになったのだそこで天文学者は1920年、今度はもっと洗練(せんれん)された服装で同じ発表を繰り返したこの時はみんなが彼の言うことを信じた。この星のことをこんなに詳しく話して番号まで教えるのは大人たちのせいだ大人は数字が好きだ数字以外には興味がない新しい友達のことを話してもどんな声かどんな遊びが好きか蝶々を集めているかと言った大切なことは何も聞いて来ない何歳か何人兄弟かお父さんの年収はいくらかと言った数字のことばかり聞いて来てそれですっかり知ったつもりになる「王子さまは本当にいたよ。可愛かったし、笑っていたし、羊を欲しがっていた。だって、羊を欲しがるってことは、間違いなくその人が本当にいるってことの証拠だからね。」こんな風に話しても大人は肩を竦(すく)め子供扱いするだけだ。しかし「王子さまが来た星は小惑星B612だよ」と言えば大人は納得してそれ以上余計なことは聞いて来ない大人なんてそんなもんだでも 悪く思ってはいけないよ子供は大人に対して広い心で接してあげなきゃねでも 生きるということがどういうことなのかよく分かっている僕たちには数字なんかどうでもいい本当だったら僕はこの物語をお伽話のように始めたかった「昔々、自分より本の少し大きいだけの星に暮らしている小さな王子さまがいました王子さまは友達を欲しがっていました。」生きるということがどういうことなのか分かっている人にはこういう言い方のほうがずっと本当らしく聞こえるだろう僕は この本を軽々しく読まれたくないこう言った思い出話を語ることは僕にとって 本当に辛い僕の友達が羊を連れて行ってしまってもう六年になるこうして彼のことを書くのは彼を忘れないためだ友達を忘れてしまうのは悲しい誰にでも友達がいるわけではないそれに僕も数字にしか興味のない大人になってしまうかもしれないそうならないために僕は絵の具箱と鉛筆を買った六歳でボアの外側と内側を書いて以来何も書いていなかった僕にとってこの年でもう一度絵を書くのは大変なことだった出来るだけ本物そっくりな肖像画(しょうぞうが)を書いてみるつもりだでも ちゃんと書けるかどうかは自信がない一枚いい物が書けてもその次はまるで似ていないかもしれない背丈(せたけ)が難しいし服の色も迷ってしまう手探りでやってみるがもっと大事な細かい部分を間違えてしまうかもしれないでも そこは大目に見てほしい王子さまは詳しいことは何も説明してくれなかったのだ恐らく彼は僕のことを自分と同じ仲間だと思ったのだろうしかし残念ながら僕は箱の中の羊を見ることが出来ない少しばかり大人になってしまったのかもしれない年を取ったのだ日を追うごとに僕は王子さまの星のことやそこからの旅立ちこれまでの旅について知るようになっていった王子さまが偶々口にした言葉で少しずつ様子が分かってきたこうして三日目にバオバブをめぐる大騒動を知ったこれも、羊のお陰だった王子さまが急に心配らしくなってこう聞いてきたのだ「羊が小さな樹も食べるって、本当なんでしょう?」「うん、本当だよ。」「あぁ、よかった。」羊が小さな樹を食べることがなぜそんなに大事なことなのか僕には分からなかったしかし 王子さまは更にこう聞いてきた「だったら、バオバブも食べるよね。」僕は王子さまにバオバブは小さな樹じゃなくて教会の建物と同じぐらい大きな樹だから象の群れを丸ごと連れてきてもたった一本のバオバブも食べきれないだろうと教えてあげた象の群れを思い描いて王子さまは笑った。「上に上に積み重ねなきゃいけないね。」しかし、続けてなかなか鋭い指摘をした「バオバブだって、大きくなる前は小さいんだよね。」「そりゃそうだよ。それにしても、どうして羊に小さなバオバブを食べてもらいたいんだい?」「何を言ってるの?そんなの当たり前でしょ。」僕は一人でこの難問を解き明かすことになり散々頭を捻(ひね)ったつまり こういうことだ王子さまの星には他の星と同じように良い草と悪い草があった良い草は良い種から育ち悪い草は悪い種から育つしかし 種は目に見えない土の中でひっそりと眠っているその一つが気まぐれに目を覚ますと伸びをしておずおずとあどけない小さな茎(くき)を太陽に向かって伸ばし始めるそれが赤蕪(あかかぶ)や薔薇だったらそのままにしておいて構わないでも、悪い草だと分かったらすぐに抜き取らなくてはいけない王子さまの星にはそんな恐ろしい種があったバオバブの種だ星の土は何処も彼処(かしこ)もバオバブの種だらけだった少しでも抜くのが遅れるとバオバブはもう手が付けられなくなる星全体を覆いつくし根っこが突き抜け穴を開けてしまう小さな星だと殖(ふ)えすぎたバオバブで破裂してしまう「決まりに出来るかどうかだね。毎朝、自分の身支度(みじたく)が済んだら、星の手入れに取り掛かる。芽(め)を出したばかりの薔薇とバオバブはよく似ているんだけど、それを見分けて、バオバブだと分かったら、すぐに抜いてしまう。手間は掛かるけど、とっても簡単なことだよ。」「偶には仕事を後回しにしも大丈夫な時ってあるけど、バオバブでそんなことをしたら、取り返しがつかなくなるんだ。例えばね、ある星に、怠け者が住んでいたんだけど、その人は三本のバオバブをほったらかしにしていたばかりに…」僕は 王子さまの話すとおりにその星の絵を書いた星より巨大な三本のバオバブと途方に暮れる怠け者。お説教(せっきょう)臭いことを言うのはあんまり好きじゃないけれどバオバブの脅威(きょうい)は地球ではほとんど知られていないし小惑星で道に迷った人が危険な目に遭う可能性はあまりにも大きいだから僕は 一度だけ普段の慎みを忘れてこう言っておこう「おい、子供たち、バオバブに気を付けろ!」僕は友人たちに警告を与えるために一生懸命この絵を仕上げた苦労して書いた価値があった他はこれほどうまくいかなかったバオバブを書いた時は切羽詰(せっぱつま)って気持ちが高ぶっていたのだああ、小さな王子さまこうして僕は少しずつ細やかで憂鬱な君の人生を理解していった長い間、君には美しい夕日しか心を慰めるものがなかったことも僕がこの秘密を知ったのは四日目に朝 君がこう言った時だ「僕、夕日が大好きなんだ。夕日を見に行こうよ。」「でも、待たなきゃね。」「待つって、何を?」「日が沈むのをさ。」君はとてもビックリしたようだったそして すぐに笑い出した「僕、まだ自分の星にいるつもりになっていたよ。」「そうだね。」誰もが知っているようにアメリカが正午(しょうご)の時にはフランスは夕暮れだだから、一分でフランスに飛んでいけたら夕日を見ることが出来るけど残念ながら フランスは遠すぎるだけど君の小さな星では本の少し椅子を動かすだけでいいそうすれば、見たい時にいつでも黄昏(たそがれ)を眺めていられる。「僕ね、一日に44回も夕日を見たことがあるよ。」そう言って、暫くしてから、こう付け加えた。「ねぇ 悲しくてたまらない時って夕日が恋しくなるよね。」「44回も夕日を見た日は悲しくてたまらなかったのかい?」しかし、王子さまは答えなかった。
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